M&Aが増えているのは

私たち住宅会社や工務店の身近なところまで、M&Aの波が迫ってきています。ここ数年、国内での件数は増加傾向にありますが、取引金額は伸びていません。これは、中小企業がM&Aの中心になってきているということです。私たちの住宅業界でも、建材商社や大手の問屋が積極的に進めており、大手ハウスメーカーは中堅ゼネコンやデベロッパーといった建設関連企業を買収しています。
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しかし、どこまで成功しているのでしょうか。買う側は、ビジネス展開(エリア、新事業)を行う上で、スピードを重視し、投資をしていきます。新たなビジネスモデルをつくりながら事業を構築していくためには、人と時間をゼロから確保する必要があり、この準備をしている間にビジネス環境が変わることもあるからです。しかし、金額的に折り合いがついても、対象企業のビジネスの健全性や人材の見極めに苦労します。また、自社から優秀な経営者を送り込むことができればよいですが、自社内にそれに見合う人材がいるケースはそれほど多くはありません。そのような状況で安易に買収に走ると、本来の目的であったビジネス展開を失敗する可能性が高いのです。

一方、譲渡する側は、タイミングを逃すと買い手がつかないことになり、廃業に追い込まれる可能性もあります。会社が次世代の経営者を育ててこなかったことが大きな理由の一つでしょう。ほとんどの創業者は、経営者としての能力が高いだけに、自身が引退ギリギリまで経営を行ってしまうことで、跡取りや後継者の育成が遅れてしまうのではないでしょうか。もちろん、今の会社を譲渡して新しいビジネスにチャレンジする経営者もいるでしょうが、ほとんどが引退していきます。

また、地方の優良企業が、首都圏の住宅会社やリフォーム会社を買収するケースが多くみられます。これは、地元の住宅需要が先細りだと感じているからです。買収する会社の内容よりも、首都圏のマーケットに期待しているのです。業界は違いますが、保育園や幼稚園経営ビジネス、生鮮スーパービジネスなども目立ちますね。地方の厳しい経営環境の中で培われてきたノウハウは、首都圏でも通じると判断しているようですが、不動産業や住宅リフォーム業は簡単ではないようです。不動産業は新規情報が第一であり、人的なネットワークで成り立っていることが多いからでしょう。社員が退職すると情報が入ってこなくなることや、地方と比較してブランド力(社名)が通じないこともあります。また、リフォーム工事は狭小地、駐車場確保、職人の単価など、仕事の内容に難度があり、地方のノウハウがそのままでは活用できないのです。たとえ受注できても、最終的な利益が確保できないといったことが起きてしまいます。

人材紹介ビジネスやM&Aビジネスは、経済活動の中で一定量は必要なことなのでしょうが、最近は行き過ぎているように感じるのです。実際に成功している案件は少なく、業績向上につながっていないケースも出てきています。それは、買収する側もされる側も、採用する側の企業の自主性が失われていると感じるのです。「どんどん採用して、だめなら辞めてもらえばいい」といった企業が存在するからです。さらに、買収した後は、企業や社員に対して前の経営者と比較すると情熱が足りないケースもあり、既存の社員が退職していく場面を多く見ることになります。「気づいてみたら、ほとんどいなくなっていた」と笑えない話も出てくるのです。

答えは見つかりませんが、ビジネスモデルやビジネスエリアばかり目を向けてしまうと、成功に導けないと考えています。やはり、組織を形成する社員のモチベーションが大きく影響すると思うのです。まずは、自社の社員を上手に使える、満足させられる状況をつくってから企業買収をしないと、M&Aの後の人事で苦労するのではないでしょうか。

