防災の日に考えること

今年の夏も酷暑が叫ばれ、豪雨や津波警報による経済的な被害も出ています。ここまでくると、異常気象だと嘆いていてもなにも解決できません。これが今の時代の傾向だと思うしかないのです。必要なことは、そのうえで対策をするということではないでしょうか。自然を相手に、人間ができることは限られていますが、事前防災をすることで、被害を最低限に抑えることはできるはずです。

第一に行わなければならないのが、言うまでもなく住宅の耐震化です。無防備な状態は寝ている時であり、その時間を自宅で過ごすことになるからです。しかし、旧耐震住宅だけでなく、2000年までに作られた住宅も十分な耐震性を確保できていないのです。これを改修できるのは、地域に根付いた住宅会社しかなく、耐震改修の技術力を持たなければなりません。第二に、酷暑や寒さに耐えられる住宅環境です。しかも、今の技術力であれば、快適性を備えつつ、CO2の排出を最低限に抑えられる省エネルギー住宅が可能なのです。もちろん、個人の所有で経済力のない人もいるでしょうが、熱中症の多発やエネルギー問題を考えると、公的に資金を投入してでも改善していかなければならないのです。第三に水没です。建物の基礎を髙くするといった解決策はありますが、河川氾濫、台風、高潮、津波などが要因で数時間前にはほぼ予測可能ですから、警報が出たら避難するしかありません。残念ながら、自ら解決できない人には、行政などが支援し、移住や、グループホーム、シェアハウスなどへ引っ越すことを検討できるようにしていただきたい。

もう一つ必要なことが、公共インフラの整備で、修繕を行わなければなりません。地方行政庁や国の仕事ですが、我々も税の負担をすることになります。日本の社会情勢から、「新築」から「修繕、利活用」に舵を切らなければ、国土強靭化はいつまでたっても不可能ではないでしょうか。毎年のように、がけ崩れ、陥没、氾濫などが各地で起きており、経済的な損失は測りきれないほどに深刻になってきています。高速道路や橋、鉄道、下水道・上水道だけでなく、公共建築物も同じです。利用価値が減少している構造物は、解体することも必要ではないかと思うのです。

自然が厳しい試練を与えてくれている国だからこそ、世界に先駆けた技術力とノウハウが出来上がってくるのです。国土強靭化や超高齢社会といった、大きな課題を乗り越えた時、日本の社会の繁栄があると思っています。私たち住宅に携わる人は「耐震補強、断熱改修」といった性能を今の時代に合わせることであり、それが強靭化や高齢化社会に寄与することとなります。一方、ソフトの面では、利活用(住宅以外の利用)や二拠点生活の推進でしょう。それが、強靭化への一歩になると思うのです。暑い時は涼しい場所へ、寒い時は暖かい場所で過ごす、それほど難しいことではないのですが、日本ではなかなか根付かないですね。しかし、日本人は環境や時代の流れを汲み取って、文化や生活習慣を変える能力を、昔から発揮してきました。事前防災といった文化意識を高め、実践できると信じています。地震大国日本、異常気象の日本、それでも被害が少ない日本にしていきましょう。

戦後、高度成長時代をつかみ取り、先人たちが苦労して今の社会をつくってきてくれました。あらゆる公共インフラも高層ビルも、世界一と言って良いほど技術力が高まっています。しかし、少子高齢化が始まり、日本社会が成熟していることは確かであり、新たなステージに立つ必要があります。今後、新築中心の経済活動を維持できる状況ではなく、リノベーション、リサイクル、利活用、修繕、維持管理といったストックを活用したビジネスを経済の中心に置かなければならないと考えています。モノだけではなく、人間も同じく転換期ではないでしょうか。しっかりとした健康管理で、高齢化が進んでも社会に役立つ人が増えればいいのです。例えば、50歳を過ぎても心も体もリノベーションして、新しいステージで活躍するのです。
