名物店から学ぶ

私が住んでいる町は、九十九里浜に近い東金市(人口6万人弱)です。単身赴任が長かったせいか、東金市のことをそれほど深く知る機会がなかったのですが、定年後に起業したことに加えて民泊運営をするに当たって、町を知ることでより好きになれると考え、いろいろな人に名物を聞いて回っています。外部の人に東金市に興味を持ってもらうためには、まずはおいしい食べ物を知る必要があると思い、自らの足で動いています。口コミが起こるだけのお店や商品は、学ぶべき点が確かにあるのです。

シャッター通りの中にあるⅠ餃子店、ここだけは絶え間なく車が並びます。冷凍餃子は単価が安いのでよく売れておりどの地域でも無人のショップができるほどですが、この餃子店は夫婦で手作り、デリバリーだけ、電話での予約を徹底しています。日曜は休み、それ以外は朝10時から夜7時までの営業ですが、4時過ぎには予約を受け付けないことがあります。「もう勘弁して、作れない」となるのです。販売は、焼き餃子と生餃子だけ、個数は4の倍数に絞っています。お店も自宅併用、作る場所も8畳程度の広さで経費も掛からず、当然、価格もリーズナブルになるわけです。お客様は、永く住んでいる市民が多く、多い人は100個も注文する人もいます。私も友人が来ると必ず生餃子を買って、自分で焼いて振る舞っています。

O味噌工場は、江戸時代から名物であったという金山寺味噌を製造しています。道の駅や自社店舗、通販だけの販売ですが、ひと月に一度ペースで、「訳あり(例えば、煮崩れ)」商品の工場直売を行います。朝の数時間だけの販売会で、工場で働く従業員が対応してくれます。市民が朝から長い行列をつくるのですが、人気の「ピリ辛イワシ」「野菜の辛子煮」などは、3分の1程度の価格のため一人2点と決まっています。

K食堂は、以前は海に近い魚屋と食堂を営んでいましたが、今は食堂に絞って経営をしています。80歳前後のご夫婦が切り盛りしており、ご主人が料理、奥様が会計です。お店の中は、いろんなものが乱雑に置いてあり、どこからが食堂なのかわからないほどです。二人とも、動かなければならない時だけ立ち上がるといった状況です。それでも、サーファーをはじめ有名人が足しげく通うのです。メニューは、「イワシとアジ」、「刺身とたたき」、「イワシどんぶり」、「ご飯とイワシの団子汁、イワシの梅煮」の組み合わせだけで、価格も700円から1,500円程度。料理が出てくると同時に、不愛想なご主人も出てきて、話しかけてくるのです。「たたきの食べ方」「食べる順番」だけならまだしも、感想を求められ、「まだまだ、魚のことわかってないな」と言うのです。「面倒な大将だな」と思いつつも、確かに味はピカ一で、おいしいのです。毎朝、銚子漁港まで出かけて仕入れてきますが、その目利きは抜群で、思った仕入れができないと開店しないというのです。そのため、ネットで確かめてから行くようにしています。友達が来ると一回は案内します。それ以外でも、「手作りなめろうがある魚屋」「たぶん…世界一小さなチョコレート工場」「台方のくずもち」など、地元の人が並ぶ店があります。どの地域でも一つや二つ必ずありますよね、自慢できる店、おいしい店が。このような小さな町でももっとあるはず、もっと探そうと思っています。

このようなお店は、よく見ると共通点があります。まず、「味にこだわり、とにかくおいしい」のは、絶対条件であり、「俺が作っている」といった手作り感が出ています。また、「商品、品数が絞られている」ということです。ターゲットを明確にして、ピンポイントで告知、口コミを起こすためか、どんな小さなお店でもホームページがあります。しかし、店は最低限の大きさであり、徹底的に経費をかけていません。小さなチョコレート工場は、工場内の一部にほんの少しだけ売り場がありますが、駐車場は大きいため並んでいる姿が見えるのです。餃子店は、カウンターだけです。食堂は3テーブルしかありません。とにかく経費をかけないので安く提供できるのでしょう。 地域で活躍する企業のあり方は、「小さい」「こだわる」「絞る」「ホームページ」「口コミ」「経費をかけない」などがキーワードになると考えています。大企業が行う戦略と、地域で生きていく戦略は全く違いますが、お互い共存できると考えています。私たち工務店や住宅会社は、地域で生きていく戦略を学んでいくべきだと考えています。

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