待ちに待った建て替え3世代住宅
尾方さん家族とは、お父さんから相続した土地に「メゾネット型アパート」を建てていただいてから、気軽に相談いただける関係を続けており、自宅のキッチンや玄関の一部をリフォームするお手伝いもしてきました。アパートの運用を開始してから5年が経ったある日、相談があるとのことで電話をいただいたのです。当時、住宅会社の社長業として出向中であり、千葉での仕事に集中していたのですが、すぐにあざみ野の自宅を訪問したのです。
尾方さんは、子どもが生まれたこともあり、自宅の建て替えを考え始めていたのです。確かに、親夫婦が建てた築40年の住まいに、お母様、息子夫婦と子供2人の5人では狭いのです。長く住んでいるお母様は、自宅の寒さ、暑さ、結露に悩んでいたこともあったというのです。家族の意見はまとまっていたものの、課題も多い。一つは、運用中のアパートの融資残高があること、そして、近隣との既存不適格擁壁が存在していることです。また、5年前は仕事をしていたお母様は専業主婦に、奥様は非正規で働いているものの、料理職人であるご主人も勤務期間が短い状況だったのです。
要望の聞き取りを行うだけでなく、名義をどうするのか、融資相談や仮住まい先の確保など、課題を解決するためにどのように行動するのか話し合っていました。そのような中、2か月を過ぎたころに「急遽、仮住まい先が決まったので、建て替えを急ぎたい」との報告がありました。奥様の実家が持っていた一戸建賃貸住宅の入居者が出て行くことになったので、数か月間だけ募集を止めることになったのです。入居者の退去日に合わせ、引っ越しを行い、解体工事へ進みたいというのです。
当時、間取りは大まかに決まっていましたが、融資、発注先、工事総額が決まっていない状況でした。そこから急遽、尾方さんと一緒に役割を決めて動き出し、1か月半後には解体を始めることができたのです。建物仕様、設備メーカー、解体業者、施工会社、外構工事会社など、私の提案した内容で早期に決断いただいたのです。工事を着工しても、近隣との問題が発生し、思うように工事が進まないこともありましたが、それも尾方さん家族と協力しながら解決していったのです。結果、予定通り引っ越すことができ、仮住まいの期間を守れました。家族5人の笑顔を見ることができたのです。
住まいをつくるということは、最低でも6か月はかかり、予定通りにいかないことが多くあります。今回も、仮住まい期間に合わせる、近隣問題が発生といったことが起こったのです。東日本大震災やウッドショックなどの外的要因、転職や転校といった内部要因もあるでしょう。しかし、お客様と同じ目線で問題を解決しようとすれば、お客様の信頼を得て、協力関係ができると考えています。どうしても、お客様と対立軸(発注者、請負者)になってしまうと、前に進まないし、解決できないことも出てくるのです。家づくりは、最終的な決断、責任は施主である尾方さんになりますが、信頼され、どれだけサポートできるかが設計者としての責任だと思うのです。その努力を普段からしているかが問われます。建築や融資、相続などの専門知識も必要ですが、お客様ごとに違う家族の在り方や、幸せ感、ライフスタイル、将来などを満たすために、サポートできる知識や見識を持つことが重要だと考えています。
住宅設計者は、家をつくるといったことだけでなく、「お客様家族の幸せ」を設計することでもあると思っています。ですから、できる限りたくさんのお客様に寄り添い、経験することも重要なのです。我々住宅設計者は、うわべの「特殊なデザイン」「豪華な設備」「価格重視」ではなく、「命を守る」「快適な住空間」「アフターサービス」など、本来住まいに欠かせない性能を優先すべきではないかと思うのです。最終的には、それらの基本性能が「お客様の家族の幸せ」のサポートになると確信しています。