木造住宅の耐震化を進めるために
2003年頃、阪神淡路大震災から数年が経ち、木造住宅の耐震化が叫ばれていました。1981年以前に建築された既存不適格住宅が、「もしもの時に、命を奪う」と言われるようになっていたからです。確かに、倒れた家を検証すると、圧倒的に耐力壁が少ないだけでなく、屋根が重く、柱と横架材の仕口が補強されていないのです。既存不適格住宅は、倒れるべくして、倒れていたのです。だからこそ、耐震化を進めないと、木造住宅の普及に影響が出てしまうのではないかと危機感を覚えていたのです。
講習会、展示会を開催し、リフォーム会社様、工務店様、住宅会社様といった方たちに情報提供していました。「命を守るリフォームをしよう」「性能アップリフォームで差別化」と訴えましたが、一年ほどがたっても、残念ながら耐震化が進まないのです。いろいろ調べてみると、最先端でお客様と接する住宅会社やリフォーム会社の営業や技術者がお客様に耐震化の話をしないのは、耐震化技術が身に付いておらず、提案できないからだと知ったのです。耐震診断法は、(一財)日本建築防災協会がマニュアルを出していたのですが、知らない、読まないというのが現実だったのです。そこで、その人たちが耐震技術を身に付けられる組織をつくろうと、協会を立ち上げたのです。それが、「住まいの構造改革推進協会」であり、後にNPOの法人格を取得し、活動を始めたのです。
まずは、耐震化を推進していた「日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)」様を訪問し、組織の運営や教育カリキュラムを教わったのです。当初は、建材メーカー様、耐震メーカー様に協力いただきながら、建材店様、木材店様の取引先に加入を進めていきました。「耐震技術でリフォームビジネスに差別化しよう」と、年間100回以上説明会を開催していました。「胡散臭い協会」「会員になれば、仕事をくれるのか」と言う会社もありましたが、コツコツと告知活動や勉強会を開催していった結果、10年が経つ頃には、全国700社程度の工務店様、リフォーム会社様に入会いただき、少しずつですが「木造住宅の耐震化」が進むようになっていったのです。現在は、国土交通省の住宅リフォーム事業者団体登録を目指し、住まいの構造改革推進協会は一般社団法人「ステキ信頼リフォーム推進協会」へ教育カリキュラムを移行し、活動に幕を閉じましたが、木造住宅の耐震化を目指す活動は継続されています。
N社を定年退職したこともあり、ステキ信頼リフォーム協会とは離れましたが、「命を守るリフォーム」「性能アップリフォーム」は生涯続けていかなければと思っていました。そんな折、木造住宅の耐震化をやり続けている木耐協様が、技術顧問として迎え入れてくれたのです。もう一度、一から普及活動をしていこうと思っています。
日本は、地震大国と言われていますが、これを「地震耐国」に変えていかなければならない。その中心が住宅の耐震化であることは、言うまでもありません。寝ている時間が最も無防備であり、危険なのです。家が強ければ、被害も小規模ですみ、避難所へ行く必要もない。通常の食料、衣服が使えるのです。能登や熊本で騒がれている関連死も大幅に減少するでしょう。しかし、旧耐震基準(1981年前に建築)の住まいはもちろん、1981年から2000年までにつくられた家も、耐震性が十分に確保されていないことがわかっているのです。これらの家は築30年を迎えようとしており、日本に最も存在している家なのです。また、修繕やリフォームを行う時期になっていることもあり、耐震化をする最後のチャンスと言えるのではないでしょうか。私たち住宅会社や工務店が耐震技術を磨き、技術を持った会社がどんどん提案することで、「地震耐国」に変えることができるのです。
耐震診断は、机上で行うのではなく、現地調査が最も重要な活動です。床下に潜る、小屋裏に上る、基礎の強度を測る、腐朽を確認する、防蟻、雨漏れ、傾きなど、キリがないほど確認する項目があります。そして、いくつかの補強計画案を提案していくのです。決して、きれいな仕事ではありませんが、「お客様の命を守る」といった大きな使命感を持って取り組んでいきたいと思っています。