農家のアパート経営
単身赴任時代に良く酒をともにしていた後輩が、長距離通勤を行うようになりました。父親が亡くなり、実家に母親が一人になったことで、敷地内に自宅を新築したからです。畑農家を代々行っていようですが、本人は農業を継ぐことは望んでおらず、母親のできる範囲に絞り、余った遊休地の有効活用を計画していたのです。実際、一部は倉庫や建設資材置き場として貸していたのです。そのような中、賃貸住宅が相続対策にもなると提案すると、一棟チャレンジしようとなったのです。
まずは、市場性の調査をするために、一緒に賃貸住宅を扱っている不動産会社廻りを行ったのです。賃料やお客様の層、工場や通勤可能な企業の社員のおかれている状況を理解するためです。需要と供給が崩れているのは、ファミリーなのか、単身向けなのかを調べます。大手の賃貸管理会社も含め、5社程度から情報をいただき、同時に、完成した際の賃借人の募集方法も聞き取ることができたのです。計画地は、最寄りの駅から小田急線で30分以内に通勤するお客様が多く、また、大手のFF会社の工場や研究所の社員が車通勤可能な立地であると判断し、新婚または二人住まいにターゲットを絞り込むことにしたのです。木造2階建て、ロフト付きのメゾネット、戸数も3戸と少なくし、駐車場をあえて多くとり、近隣の介護施設に貸せるようにして安定収入源にしたのです。
数か月後に完成したのですが、直ぐに賃借人がつかず、強気であった家賃の改定を余儀なくされました。しかし、3か月後には、3戸貸すことができたのです。賃借人が入ると駐車場を貸すこともでき、長く住んでいただけるようになったのです。もともとの目的が、所有している空き地の管理(草刈りなど)が全くできなかったことや、2次相続対策でした。賃貸住宅経営も初めてだからこそ、慎重に市場調査を行い、あえて戸数も少なくして駐車場を大きくしたのです。相続対策のための融資もJAであり、少ない投資であることから理解いただいたこともあります。結果、本人だけでなく、母親にも喜んでいただいたのです。
一般的に、新宿から電車で90分ほどかかり、駅からも歩けず、農地が多く残る土地というだけでなく、人口も減少している地域であるので、賃貸住宅は控えるべきなのかもしれません。アパート建築の費用はあまり変わらない中、家賃価格が低いエリアなので、表面利回りは良いとは言えません。しかし、本来の目的の空き地の管理や2次相続対策には有効であることは確かなのです。初めての賃貸経営は、土地を所有していたことだからできたことであり、リスクを最小限に抑える必要があると思っています。エリアの賃貸市場を見ながら、2棟目をチャレンジしていけばよいのです。
十数年前は、大手の賃貸住宅管理会社が「借上げ保証」というサービスをつけ、賃貸住宅の市場性があろうがなかろうが、どんどん賃貸住宅をつくっていきました。地主も、「賃貸住宅経営は何もしなくて収入があると、農業よりもいいか」と安易な気持ちで進めたケースが少なからずありました。結果、空室が増え、賃料を下げざるを得ず(借上げはするが、家賃保証ではない)、苦しんでいる賃貸住宅が目立つようになってきました。家賃収入が減少しても、返済額は変わりませんので、そのリスクは事業主がすべて負うことになるのです。
人口が減少しているエリアでも、世帯数は増えてケースは多いので、新築の賃貸住宅が増えていることは確かです。しかし、築10年もすると、空室が多く存在していることも確かなのです。昔と違い、変化が速い社会情勢の中で、同じ間取りで長い期間貸し続けるということは今後ありえないと考えるべきです。修繕をするだけでなく、時代に合わせた間取りやリノベーションが簡単にできることが重要であり、そのような意味でも、木造建築がリスクを軽減することになるのです。また、解体費用が安価であるといったことや環境にやさしいといったことも新築時から考えていかなければならないのです。