鉄骨造から木造化へ
鉄骨造、RC構造を得意にしているK建設工業様は、地元では大きな力を持っています。公共施設の受注がメインですが、商業ビルや賃貸マンションを所有する不動産部門もあります。いろいろな情報も入ってくるようで、地元以外でも、東京の中心地においてもいくつかの不動産を持っていました。そのような中、世田谷区代田(下北沢駅が最寄)にある古い寮を購入したのです。仕事の関係でお客様が持っていた寮と思われるのですが、リフォームして再利用するか、または建て替えることを検討していました。社内で計画や設計を何度もやり直しましたが、建築費用が高く、採算が合わないと悩んでいた時、相談に乗ることになったのです。
市場調査をすると、下北沢駅から歩けるものの、低層の高級住宅街の一角であったこと、ファミリー層の賃貸住宅が不足していること、水辺公園に面し桜並木の見えるロケーションといった特徴が見えてきました。そこで、木造2階建てのメゾネットの長屋建築2棟で、2棟のコアスペースに桜(シンボルツリー)を植える外構計画や、ベンチなどを設置したファミリーが居心地の良いスペースの創出などを提案したのです。
鉄骨造の共同住宅と比較して戸数は減少しますが、建築費用は50%程度、賃貸収入は80%程度となるプランです。しかも、エレベーターや共同部分(エントランス、階段、外廊下)の設置もなく、オーナーとしての維持管理費用も大幅に減少したのです。数回の打ち合わせを経てご決断いただき、計画を進めることになりました。1年後には、寮の解体と一部造成、メゾネット建築の施工、外構工事、賃貸募集も終了して入居いただいたのですが、引き渡しに合わせて見学をいただいた会長に非常に喜んでいただき、自己所有している土地の活用を依頼されたのです。その後、会長から数棟、木造のアパート建築の発注をいただいています。
木造建築の共同住宅に対する懸念は、なんといっても遮音の問題です。上下階の遮音性能によって、入居率が落ちる傾向にあったことから、ハウスメーカーやゼネコンから敬遠されていました。退去理由のデータをとっても、その通りなのです。木造建築は圧倒的に荷重が軽い分、重量音(歩く音など)に対する性能は低くならざるを得ないのです。この点については、上下が同じ世帯となるメゾネット方式を採用し、隣家との境となる界壁には厚さや重量のある石膏ボードなどを用いれば、遮音性能を高めることができます。
一方、木造の良さは改修のしやすさであり、固定階段ロフトなど、収納のつくりやすさなど、間取りに入れ込むことができるのです。そして、なんといっても、建設コストが低価格で有利になり、家賃単価(坪当たりの賃料)はそれほど開きがなく、共同部分がない分、すべての床面積を貸すことになるので、賃料総額は伸びるのです。結果、圧倒的に投資の収支計画が改善されるのです。不動産投資は、貸し手のオーナーが最終的に決断することにはなりますが、金融機関の融資が有利になるかどうかがキーになるので、いかに金融機関が貸しやすいプロジェクトにするかといった視点も必要なのです。だからこそ、ここ数年は建築物の木造化率が増えているのです。
地元密着のゼネコン様は、高度成長時代の公共建築物の受注で大きく業績を伸ばすことができました。地域のために社会貢献も積極的に行ってきたこともあり、信頼力は高いのです。政治家を輩出することも多く、地元経営者にも顔が広い。そんなこともあり、不動産情報も早い段階で入手するルートも持っていますので、不動産事業を少なからず行っています。しかし、今まで木造の公共建築物が少なかったこともあり、木造の技術者が少なく、下請け任せになっているケースが多いのです。一方、我々木造建築会社として、戸建住宅事業だけでなく、不動産投資(アパート)物件や非住宅建築を手掛けていかなければ、戸建住宅業界が縮小しているだけに、厳しい経営になってしまいます。建築受注のネットワークを構築する上で、お互いの長所を生かし、手を取り合う必要があると考えています。