定年退職からの自邸建築を応援
浪川様との縁は、浪川様の親戚に当たる司法書士の先生からの紹介です。先生とは普段取引していることもあり、一緒に話を聞くことになったのです。浪川様は、地元の病院を定年退職され、数年前に離婚して実家に戻ってきていましたが、実家は姉夫婦と両親でつくった家であり、できる限り早く独立しなければならない状況だったのです。そんな時、実家に近い場所で親戚が持っていた古屋付きの土地を購入し、建て替える話が持ち上がったのです。
内容を確認すると、当初は退職金と親の援助だけで独り住まい用の家を建てることを望んでいたのですが、色々な建物を見学するなかで、ログハウスやホワイトハウスのようなデザイン、ドックランができるようになど、夢が大きく広がっていました。一方、援助を行う親は、和風、自分が遊びに来られる場所などといった要望があり、先生は、地盤を高く、南側の線路との距離、家相など、お互い譲らない項目が多数あるのです。要望を纏めることをお願いしますが、施主である浪川様が、心の底では違うと思っていても、2人の前では黙ってしまう性格なのです。各々経験上、よかれと思ってアドバイスをくれるのですが、「住む人は浪川様です」と私が言っても、「あの子は、わかっていないから、後悔しないためにもこうすればいいの」と、理解いただけないのです。
3人の意見をできる限り取り入れて、間取り、仕様を組み込み、浪川様に最終確認し本人の了解を得られても、2人の前でひっくり返されることが良くあり、設計者にとって不安な状況が続きます。結果、最低限の確認項目を、各々と面談して確認いただくしかないのです。繰り返し話しても、全く折れない人たちであり、施主が3人いるのと同じですから、時間は予想以上にかかりました。それでも、光熱費のかからないZEH、寝室と大きなリビング、ダイニング、ペニンシュラキッチン、小屋裏収納(家具式階段付きロフト)を提案、ドックランのある庭、和風の外観デザインを気に入っていただき、プランは確定したのです。
建築確認を取得し、解体工事、造成工事と進み、着工準備と進めるのですが、地鎮祭を行うのに、日にち、宮司などでもめるのです。「この神社じゃダメ、準備は宮司側が行うこと」など、お互いに譲らないのです。施工中も毎日のように見学に来られ、気づいたことを工事監督に連絡して来るのです。確かに現地は、実家に近く、いやでも目に入ります。工事予定を事前に話しておくのですが、気になるのでしょう。外構工事も、何度もプランを提案するのですが気に入らず、親戚の業者へ別発注することになったのです。
数か月後、外構工事を親戚に直接発注した関係で、工程が崩れるのです。玄関ポーチや庭へのアプローチ部分と干渉する場所が工事ストップになりました。建築の引き渡しを行い、住みはじめているにもかかわらず、数か月間も外構工事内容、工程が決まらないのです。引き渡して半年後にやっと完了しましたが、ずいぶんと時間を要してしまいました。
地方都市になればなるほど、このようなケースは増えるような気がしています。土地の価格が安いこともありますが、定年退職近くになると、年老いた両親の家の近くに(敷地内のこともあるでしょう)、1人か2人住まいの平屋を建てる、ZEH仕様で光熱費のランニングコストを低くしたい。80歳代のご両親は、住まいを変えることもないし、リフォームもできないが、50歳から60歳のお客様は快適に住みたい、できる限り小さい家、平屋がいいのです。私が住む九十九里エリアで平屋の比率がどんどん増えているのは、高齢者比率が高まりつつあり、そのようなニーズがあるからではないでしょうか。
シニア層をターゲットにした平屋の企画住宅は、間違いなく時代の要請であり、価格や大きさよりも、「快適、バリアフリー、低ランニングコスト、防災仕様」などが注目されると思っています。地方の工務店さんほどターゲットを変えるべきと考えています。