縁を相続する

初めて建築条件付き土地分譲で注文住宅を建てていただいた山本様とは、年賀状や電話、訪問など、約40年にわたってやり取りが続いていました。ご主人が亡くなり、奥様が介護施設に入所したことを、ご子息からいただいたはがきで知りました。自宅を建てたときにはまだ中学生だったご子息は、その時の思いを形にするために、大学で建築設計を学び、大手住宅会社のS社で設計部長になっていたのです。私にとっても、山本夫婦の家づくりは忘れられない作品で、40年たってもプランづくりの過程を思い出せるのです。そんなこともあり、いつかはご子息と会いたいと願っていました。

最近までご子息がS社に勤務しているか知らなかったのですが、趣味の一つである「神輿の同好会」の会員の多くがS社の社員で、彼らと話をしていく中でご子息の存在を知ったのです。S社とは不思議と縁があり、私の長女と次男が新卒で就職した先でもありました。また、私が勤務していたN社の取引先でもあり、東金営業所時代の分譲住宅事業のライバルでもあったのです。そんな勤務先でしたが、同好会のメンバーに今までの経緯を話すと、ご子息との仲を取り持ってくれて、今年に入って再開することができたのです。うれしいものですね。会った瞬間、お互いに、「お世話になりました。あなたに会いたかった」と言葉を交わすのです。当時は、控えめに居たこと、お父さんとの会話が中心であったことなどから、ご子息のイメージは薄いものでしたが、なぜか会うと身近に感じるのです。「お久しぶり」という言葉が不思議と自然に出るのです。ご両親や建築、住宅の話が中心になるのは当たり前ですね、お互い一級建築士、住宅専門ですから。しかし、今はRC構造と木造建築を専門にしており、詳細は違いますが、お客様への提案、思いなどは設計者として同じなので、今後も良い付き合いが継続でそうです。

 「縁を大事にする」ことは、人としての生きるのに非常に大事なことですが、その上の「縁を生かす」ことまではなかなかできていません。さらに、「縁を相続する」はもっと難しいと考えていました。家づくりは施主夫婦が中心となり、私たち設計はお手伝いすることで、建築させていただくといったことだからです。家は数代にわたって相続されるのが理想ですが、相続者とは関係性が薄まっていくのが一般的です。一代で建て替えるとなると、ほとんどが関係性を失うことになってしまいます。しかし、少し前は、数代にわたって家を守る「家守り」といった工務店様の存在がありました。だから何世代も残っている農家や網元の住宅もあるのです。何もなくても年末に挨拶に行き、住まいで困ったことあれば対応する。数年に一度は、屋根や壁を直し、床や内壁をつくり直すなど、家の維持管理を行っていたのです。文化財のような神社や寺にお抱えの宮大工がいるように、長年使うような住まいにもいたのです。それも相続されていたのです。

 私は、工務店ではありませんが、設計者として「縁を相続」できたことに感動しています。もちろん、ご子息も建築設計士ですから、家づくりの相談はないかもしれませんが、人生においての相談事はお互いにできると考えています。また、私の大事にしている「縁」をいずれは、相続していかなければならないと思います。長男なのか、次男なのか、または、新しい存在が出てくるのかわかりませんが、お世話になった人たち、縁を続けている人たちを大事にしていきたいのです。特に住まいづくりを一緒に行った施主様たちに安心していただきたいからです。本当は、住宅会社として、組織として、縁を構築していければよいのですが、現実には個人での縁になってしまいます。それも一代限りとなると寂しいものです。住まいを相続すると同時に、縁も相続するような仕組みを考え、実践できれば、昔のような「家守り」が復活して工務店業の存在価値が増すと考えています。https://ys-s-design.com/column/2024/03/01/02/


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