古家を購入し駐車場にしていた場所に、離れをつくった‼
三日月湾(外房勝浦)が見える、鈴本さんの2世帯住宅をつくってから10年を過ぎたころ、近所に空き家が出たので、購入して駐車場にしたい旨の相談がありました。2世帯住宅は、敷地ギリギリにつくったこともあり、軽一台、乗用車1台しか停められない。子どもたちが所帯を持って、孫を連れてくるのが日常化していたこともあり、購入のお手伝いをすることになったのです。
敷地の広さは50坪で、北側に山を抱え、築50年を過ぎている平屋が建っています。前面道路は旧国道(幅員5m程度)で、南道路に10m程度接しており、通路を入れても6台程度は停められます。地主に販売する気があるかどうか、鈴本さんに聞き取っていただきました。その家は、ご両親が他界し、空き家になって数年がたっています。相続した長男が管理していましたが、70歳になったこと、千葉市に家庭を持っているということで、車で年に数回来るのも大変になっていたのです。妹と相談し、売る決断をしていただいたのです。それから、価格の査定、境界の明確化、引き渡し、建物解体、駐車場整備などをお手伝いし、無事に駐車場として活用していました。
さて、数年がたつころ、長男家族の子ども3人が小学生になり、家族5人では、現在住んでいる官舎が狭いということで、予定通り鈴本さん夫婦と同居することになったのです。もともと、同居を前提としていた家は、リフォームをすれば、玄関、キッチン、リビング、浴室などが分離できるようにスペースを確保していました。しかし、駐車場は1台減少(外階段設置スペース)となり、また、子ども部屋は2人までのスペースしかないのです。それでも、長男夫婦は同居を要望していました。鈴本さんご夫婦とは、仲の良い家族なのです。
一方、鈴本さんご夫婦は、60歳代でまだまだ元気、自分たちのことは自分たちだけで十分にできます。家族会議を開いた結果、「購入した駐車場に平屋の離れをつくろう」となりました。それは、外孫が4人もおり、娘が里帰りで孫を連れてくること、親世帯のほうがプライバシーを守りたい、夫婦は別室の寝室にしたいなどの要望があったからです。そして、私の出番になったのです。
65歳を過ぎてからの離れの新築ですから、介護のことも考え、できる限りコストを抑え、最小限の床面積、ランニングコストがかからない住宅を考えて、提案することにしました。結果、1階を2LDKと水回り、リビングを勾配天井、小屋裏部分に、外孫が泊るスペースと納戸(季節ものを置く)を設置するワンハーフ型というものです。奥様からは「専用のウォーキングクローゼット」と「洗濯ものが干せるウッドデッキ」、ご主人からは「海からそのまま浴室」と「駐車場に面した外物置」という強い要望がありましたが、これを満たしつつ、リビングダイニングは2人で十分なスペースを確保したのです。北側は、がけ地条例によって家を建てられないため、駐車場と外物置を配置することにしました。当然、導入路が必要でしたが、隣地とのプライバシー確保、お客様用の駐車場として役に立っています。エレベーションは、太陽光を十分に載せられるよう片流れ屋根にしています。 入居して1年が過ぎましたが、冬温かく、夏は涼しい、1年中快適な住まい(全館空調)でありながら、光熱費「ゼロ」を実現しています。バリアフリー、導線も短く、普段の生活では階段を使うこともなく、停電時でも車の蓄電池から、電力が供給できるようにしています。離れを防災住宅にすることで、母屋の子ども家族も安心してくれています。2世帯住宅ではできにくく、離れの新築にしたからこそできることを組み込んだのです。鈴本さんにとって、2回目の新築住宅ということもあり、「自分たちの生活」を明確にすることができたことで、重要視する性能や導線がスムーズに構築できたと思っています。「自分たちだけの家」だからでしょうが、うれしいことに、住まいを大事にしてくれており、いつも片付けられて隅々までうまく活用してくれています。設計者としてはこれほどうれしいことはないですよね。