アパート火災から、有効活用へ

二十数年前に私の部署に新入社員できた米山さんが、慌てて電話を寄こしたのは、平成の終わりごろでした。「部長、実家の近くに所有していたアパートが火事になり、全焼扱いになってしまいました。これからどうしたらいいのか、相談に乗ってください」と。米山さんは、すでにマンション、戸建て分譲住宅の営業マンとして大ベテランで、知識も能力も備えていましたが、アパートや貸店舗などの賃貸物件のオーナーとなると不安だったのでしょう。昔から、営業や設計のことでわからないことがあると、お互い相談する関係であったのです。電話で話を聞くと、「ありがたいことに入居者は全員無事であり、火災保険でいくらか補填もある。入居者は全員が他に引っ越し、今後どうするか、ご両親から任された」と言うのです。

その土地は、JR中央線の中野駅から歩いて10分ほどの立地ですが、戸建て住宅が密集した一種低層専用住宅地域です。前面道路は2項道路(幅員4m以下)で勾配もあり、隣地境界も不明確、どう見ても隣地の建物の配管が越境しているような状況です。しかし、地下鉄丸の内線の駅にも歩け、新宿までも自転車で行けるような立地であることから、小さなアパートになってでも進めようとなったのです。

課題は、隣地境界の確定と前面道路査定(道路中心線確定)であり、隣地住民との立ち合いや役所の立ち合いです。権利関係も複雑で時間がかかりました。越境物があったこともあり、敷地面積を小さくして企画せざるを得ない状況で、25坪程度、容積率も100%です。マーケティングを行い、ワンルームを1戸、1Kを1戸、1LDK(メゾネット型)を1戸の計3戸の案を出しました。というのは、ワンルームは投資効果があるものの、あまりにも供給過多になっていた一方で、1LDKは需要があるにもかかわらず供給が少なかったので、組み合わせることにしたのです。

後輩ということもあり私なりに気合を入れて取り組み、「アパート建築で成功した息子の姿をご両親に見ていただこう」とよく話していました。近隣の同意、コロナ渦の問題、建築職人不足、前面道路の中心線の確定問題、賃貸管理会社問題など、すべてがうまく進んだわけではありませんでしたが、予定通り入居者が決まり、最終的には家族みんなに喜んでいただけたのです。

立地が良かったことや火災保険が出たこともありますが、不動産としての表面利回りは20%をはるかに超え、空き室がないような状況が続いているため相続対策にもなっています。成功している一番の理由は、難度が高い分、二人で相談しながら動いたことや、お互いの得意な分野を分かち合えたことだと考えています。米山さんは、近隣問題解決と賃貸管理会社交渉(賃料交渉)、私は設計と施工管理を得意にしていたからです。今回の建て替えのきっかけは火災ですが、そもそも建て替える時期でもあったこと、火災によって無理なく退去をさせることができたことなど、タイミングが上手く重なりました。そのタイミングで、大きな決断をできるかどうかです。ご両親も息子を信じてどんどん任せて、その米山さんも自分の得意分野以外は専門家に任せるといった度量があったと考えています。

初めての時は、どうしても人を疑ってしまうことがあり、自分で何でもやろうとする傾向があります。自分の周りに信頼できる専門家がなかなかいないということに加えて、不動産や建築(特に木造建築)は、少し勉強すれば自分で正しい判断ができるのではないかと考えてしまいがちです。普段の生活の延長にあり、身近にあるからでしょう。住まいづくりと同じで、信頼でき、フィーリングの合う専門家を集められるかがポイントですが、その上に、不動産投資はビジネスだということを肝に銘じる必要があります。アパート建築という不動産投資は、小さいながらもビジネスであり、ビジネスの基本が大事だからです。必ず、リスク(空き室)が存在しますから、自分の好きな間取り、好きな設備ではなく、「マーケティングでの入居者に合ったアパート」にするためにも、専門家が必要だと考えています。ぜひとも「笑顔デザイナー」にお任せください(笑い)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です