築50年のたばこ店の建て替えを応援する
大竹さんと知り合ったのは、大竹さんがN社の子会社であるマンション管理会社に勤務していた時です。実家は長年、たばこ店を営んでいましたが、ご両親がともに高齢となり、2階に上がることも躊躇するほどの状況になりました。近くに住みながら何とかしなければと考えていましたが、そのような時に前面道路の拡幅計画が決まって区役所から敷地の一部を買収されることになり、建て替えることにしたのです。
ご両親は、長男である大竹さんにすべてを任せており、大竹さんとの打ち合わせになっていきました。昔、駄菓子屋によくあったアイスクリームBOXから、ホームランバーを出していただき、お店の奥の茶の間のちゃぶ台を使った打ち合わせは、昭和の良き時代を感じるものがありました。お茶を出してくれるお母様は、私たちが勝手に想像する、「タバコ屋のおばあちゃん」そのものです。小さな家になっても、そのご両親が快適に住める住まいをつくりたいと思い始めたのです。
大竹さんからの要望は、ご両親が快適に住める家、相続対策、資金的には買収金と両親の預貯金、引っ越しは一度で済ませたいといったもので、こだわりはあまり強くありませんでした。また、敷地も角地ではあったものの買収で小さくなります。それを踏まえて提案したのは、第一段階で、貸していた隣地の建物を壊し、2階建ての賃貸併用住宅を建てて引っ越しをする。第二段階で、今住んでいる家を解体して、一部を区へ引き渡し、残りを駐車場に整備する計画です。1階をご両親の住まい、2階を賃貸住宅にするプランで、将来的には1階も賃貸に出すか、大竹さんの子供の住まいにすることを見据えています。賃貸にすることで、相続対策にも有効であり、ご両親も1階だけの快適な居住空間に住め、将来像も立てやすいと考えたからです。
数回の打ち合わせを行い、近くに住む弟さんも交えてご決断いただいたのです。道路買収に関する手続きやスケジュールに時間を割くことになったことや、前面道路との距離がなく、外構工事(段差解消、スロープづくり)に難度があったのですが、何とか予定に合わせて完成させることができたのです。新しい住まいに引っ越しを済ませ、既存のタバコ屋を解体し、駐車場に整備するまでが請け負った内容ですから、大竹さんとは打ち合わせから1年以上のお付き合いになっていました。
2階の賃貸部分は、対面キッチン、吹き抜け、固定階段付きロフトなど、特徴のある間取りにしたこともあり、若い新婚さんに借りていただくことになったのです。重層長屋(1、2階が別世帯)の最大のデメリットである上下階の遮音の問題がありましたが、ご両親とも耳が不自由であることも理解していましたので、快適に住んでいただいたのです。ご両親の安堵の笑顔、子供たちの笑顔を見ることができたのです。そして、ご両親が引っ越し後も何度も訪問し、その度にお茶をいただきましたが、残念ですがホームランバーは出てくることはありません(笑い)。大竹さんとの付き合いも長く、東京では当たり前のようにある借地権付きの建物や再建築不可の建物など、難度の高い相談にのりながら、私も勉強になっています。 きっかけはどうであれ、耐震基準を満たしていない建物が多く残る東京の下町で、防火・耐震化を進めるには、このような賃貸併用住宅を推進することが最も早いのではないかと思います。高齢になり、少人数家族になってきて、急な階段だから2階には行けなくなってしまっている住まいは、いわゆる木密地域に集中しているのです。首都直下地震が叫ばれている中、最も危険なエリアに存在しているそのような建物への解決策の一つです。タバコ屋の建て替えをしながら「これしかないと思い」、貸店舗への建て替え、賃貸併用住宅などを手掛けるようになったのです。