既存不適格の擁壁を抱える敷地を活用する

東急田園都市線沿線に住む尾方様家族の相談に乗ることになったきっかけは、金融機関の担当者からの紹介でした。親子で飲食店を経営している尾方様は、今後のことでいろいろ金融機関に相談をしていたのでしょう。当時、お店の経営の中心であったお父様を亡くされ、結婚したばかりのご主人とお母さまが引き継いでいたのです。自宅も築30年を越えていましたが、お嫁さんと三人で仲良く暮らしていました。最初の聞き取りの中で、お父さんの実家が私の家から歩ける場所にあり、子供時代にはそこに来ていたことがわかり、お互いに親近感を持つことになったのです。

お父さんが自宅と地続きだということで所有していたその土地は、第一種低層住居専用地域で、南北距離が短く、敷地延長、南側に2階建ての住宅が密集しており、おまけに西側に既存不適格の擁壁が3m存在するのです。誰に相談しても利活用の提案がなく、販売しても現地を見ると契約までいかない状況だったのです。しかし、人気の田園都市線の駅から歩いて10分という、賃貸住宅には適した場所なのです。

 マーケティングを行うと、小さな(45㎡程度)ファミリー向け賃貸住宅が不足しており、潜在需要はあると判断し、コストを意識しながら、木造住宅のメリットを最大限に活用した案を考えました。まず、西側の既存不適格擁壁には、RCの待ち受け擁壁(h=1.5m)を計画し、できる限り東西を長く使えるよう計画にしたのです。日当たりの悪さに対しては、メゾネット型の2階にLDKとトイレを配置することでLDKに陽が入るように工夫し、1階を寝室、脱衣室、浴室、玄関としたのです。もちろん、リビングからロフトに行けるように、家具式階段(ロフティ)を設置しました。南北が短い、第一種低層住居専用地域では、設計の自由が高い木造建築だからこそ可能でしたし、木造建築だからこそ、建築コストと家賃収入による収支計画が成り立ち、金融機関の融資も可能だったのです。

お父さんがなくなったことから、若い主人(30代前半)は一家の主という責任感を持ち、真剣に物事をとらえ、わからないことがあると、どんどん質問をしてきました。わかりやすくお答えするように注力し、何回かの打ち合わせの中で決断いただき、「擁壁を抱えたメゾネット賃貸住宅」をつくることになったのです。そして、お父さんが残してくれた大事な土地を、賃貸住宅経営を通じて見事に活用してみせたのです。

 尾方様家族とは、近くで分譲住宅を販売していたこともあり、その後、何回か自宅を訪問するようになっており、その後も長くお付き合いをすることになります。その間に、子どもが生まれ、自宅のリフォーム工事を行い、お店も利用させていただいてきました。数年間、遠く離れた千葉の住宅会社へ出向したにもかかわらず、お付き合いは続き、初めての賃貸住宅ビジネスも順調ということから、いよいよ、自宅の建て替えを考えるようになったのです。

つづく。

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