小さな土地活用と自宅

 目黒田ご夫妻から相談があったのが、平成の30年ごろの夏のことです。奥様が、実家の跡地を相続したばかりの一部分の活用です。大部分はコインパーキングとして活用して、残った土地を妹さんと分割し、東道路に面した22坪の土地です。三軒茶屋駅から歩いて20分、環七道路から一本内側に入った住宅地であり、賃貸住宅建設には適した土地です。しかし、一種低層住居専用地域、高台に位置し、前面道路はセットバックを必要とする難度の高い敷地条件です。敷地延長の土地を相続した妹様は、ハウスメーカーD社に発注し、完成が近い状況でした。

 そんな状況の中、ご主人の友人の勧めで私が担当しました。現地を確認し、エリアのマーケティングを実施して、お客様との面談を迎え、聞き取りを丁寧に行いました。お客様は、「初めての賃貸経営」「ご主人は不動産に詳しい」「奥様はご主人の意見を尊重する」「妹様の投資状況を見ている」などがキーになり、そのポイントを満たす提案が必要であると気づきました。また、私の卒業した大学の近くの姉妹校である大学を卒業した奥様とは、「昔話で花が咲き」人間関係が一気に縮まり、2週間後にプレゼンをすることで合意を得ました。

 三軒茶屋駅(東急東横線)は渋谷から10分程度の人気のエリアですが坂道を歩いて20分、最寄りの若林駅(世田谷線)坂を歩いて7分の立地、一種低層住居専用地域で、近隣は高級住宅が多い。結果、ファミリーの一戸建て賃貸に絞り、計画しました。ビルトインガレージ、自転車置き場を配置し、容積率ギリギリの2LDK。2階にリビング、ロフト、勾配天井、浴室などを設置、リビングから三軒茶屋の街並みが見えるように窓を作りました。一階は、2室に仕切れる大きな寝室と玄関、ビルトインガレージです。コストは木造であることもあり、D社(小さな1DK×2戸)に比べびっくりするほど安かったと理解しています(そのように奥様からの言葉)。2回ほど商談を行い、発注いただいたのです。そして、着工し、引き渡しを行う時期に入り、奥様の友人など数組を建物見学会にご案内することから、新しいお客様をご紹介もいただきました。

 賃貸募集の時期になり、企画提案時に予定料金を提示した会社(私が紹介)に決まり、一戸建特有の募集方法、契約内容で進めることになりました。数週間後、あるネット関係にお勤めの若いご夫婦が借りていただいたのです。設計者として、必ず、建設した建物は入居者に聞き取りをします(もちろん、関係者了解後)が、「もしもの時、本社の渋谷まで歩ける」「子供が生まれたばかり」「ビルトインガレージ」「おしゃれなリビング」が気に入り、借りることにしたようです。夫婦で勤務する会社は、もしもの時に駆け付けられる地域に住むと、家賃補助が驚くほど出るようで、夫婦ともに補助が受けとれるということから、若くても一戸賃貸住宅が可能だと教えてくれました。東京商圏は、いろいろな条件、いろいろなお客様が存在していると、改めて気づいたことです。この賃貸募集会社は、大手の会社の総務部門(法人営業)とつながっており、一般的な募集(店頭、ネットなど)以外での方法なのです。一戸建て賃貸は、なかなかお客様が付かないケースもありますが、エリアマーケティングを行い、需要と供給をよく見極めると長く住んでいただけるケースが多いことも確かです。二組のお客様の笑顔を見ることができました。

 目黒田様とは、引き渡した後も、自宅に呼ばれて、お食事、お茶をいただくようになっていました。自宅訪問の帰りは、たくさんの有名人宅が存在していたこともあり、外観の勉強にしていました。そして、2年後に相談されたのが、自宅の改修です。リフォームと同時に望まれたのが、耐震補強であり、私の得意分野ということもあり、一緒に取り組むことになったのです。自宅のある目黒区の補助金を活用する上で、耐震診断、補強設計は目黒区内の設計事務所登録者に限られていたので、補強設計を依頼し、施工は会員(NPO法人住まいの構造改革推進協会)であるO工務店様にしました。一般的なリフォーム会社ではなく、耐震補強知識を経験している工務店でないと安心できないからです。結果、目黒田様の笑顔を二回も見ることができたのは、うれしい限りですが、三回目、四回目もあるのではないかと一緒に笑っています。

※この画像は「物語のイメージ」です。

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