三日月湾に面する二世帯住宅
鈴本様ご夫婦から相談があったのは、平成も半ばに入った春頃のことです。ご主人の父親が亡くなって3年、「そろそろ、自分たち家族を中心とした住まいに建て替えよう」と思い立ったのです。それまでは、父親が建てた築20年の住まいを増築し、キッチン、玄関、浴室も共有する「昔からの住まい」で子育てをしてきたのです。奥様にとっては、ご両親に気を遣う家だったと想像がつきます。その時には築40年近くになり、海沿いということで、劣化もひどくなっていました。リフォームで解決できる状況ではなく、「建て替え」をすることに賛同しました。
家族構成は、子ども2人と腰が曲がってしまったお母さま、そして40歳代後半のご夫婦の5人家族。敷地は、旧国道(幅5m程度)に面した狭小(幅員7m程度)の50坪。敷地内に高低差があり、隣地(奥、北側)とは3m近くの擁壁を抱えるだけでなく、がけ地条例にもかかる敷地です。漁師町によくある、海から10mもないにもかかわらず山が接近し、その隙間に住居を構えるといった難度が高い敷地条件です。
夫婦の要望が非常に多くある中で、優先順位をつけながら聞き出していきました。まずは、将来、長男(まだ高校生)と二世帯住宅になる可能性が高く、それを長男が希望している。それだけ仲の良い家族なのです。次に、寒くない家、キッチンは大きめのカップボードが収まること。近所の人たちが集まれる和室(日蓮宗のお題目=田舎のルール)、洗濯物干し場の確保などです。
この家族の中心は、間違いなく「奥様」です。毎日の奥様の振る舞いが、家族全員の居心地よさを醸し出していると考え、奥様がストレスを感じない住まいを提案していきました。まずは、暖かい家の提供のため、OMソーラーを採用、基礎断熱(内側)、壁断熱は付加断熱(内断熱と外断熱)にして、気密が簡単に確保できるようにしたのです。それを前提に間取りをつくっていきました。車2台の駐車スペースを確保しつつ、がけ地の関係で、前面道路から1m高基礎(奥の隣地と2m以内にする)にして床高を設定。将来、津波が来る可能性があるため隣地より高くしたのです。一階は、二間続きの和室(仏壇とお母さまの居室と、近所の付き合いスペース)と、大きめのダイニングキッチン、洗面浴室など。海が近いため、外のシャワーと洗面脱衣室に直接入れる勝手口なども必須条件となります。二階は、夫婦の寝室、第二のリビング、子ども部屋と洗濯物干しスペース。三階は、子ども部屋とバルコニー。斜線の関係もあり、三階は大屋根(ソーラーパネル設置)の中に入るようにしつらえました。高基礎、基礎断熱であるため、床下に収納スペース(みんなが集まるイベント用品)を確保したのです。
最も難度が高かったのは、二世帯住宅(長男夫婦)へリフォーム可能にすることです。将来、一階のスペースを鈴本様夫婦が使いつつ、二階は若夫婦のため、キッチン、リビング、浴室、洗面に変更できるように、三階は最低二人の孫が住めるような間取り変更ができるようにと苦心しました。おまけに、一階から三階まで納戸(1.5畳)をそろえ、ホームエレベーターが設置できるようにするというものです。洗濯物干しスペースは、二、三階にしかないからです。そのような住まいづくりの打ち合わせを3カ月ほど行い、1年後には、床面積55坪の三階建て住宅が完成したのです。
三階のバルコニー(屋根の合間)からは三日月湾が見え、夫婦の友人たちだけでなく、子どもたちの友人も一階の二間続きの和室に集うようになりました。キッチンは対面式で、三方向にカップボードを設置、すべての食器や機材が収納できるようになっています。夫婦が望む、たくさんの人が集まりやすい家になったことは確かで、賑わいのある住まいとなったのです。限られたスペースの中で、お客様の要望をできる限り入れ込んだ家となっています。
それでも、三年もたつと「思ったより寒い」「ふとんを干すスペースが狭い」などといわれ、「それ以外は大満足」と笑います。「OMソーラーは太陽熱を利用しているだけで、暖房機ではないのですよ」と説明しても、「寒いのはダメ」となりますが、嫁に行った娘が帰ってくると、「お母さん、こんなにあったかい家はほかにはないわよ。お母さんは慣れちゃったのよ」とフォローしてくれます。それでも、間違いなく家族全員の笑顔が増えたことは間違いと思っています。
※この画像は「物語のイメージ」です。