地面師たち

不動産業界では有名な、地面師という詐欺集団。戦後、不動産の経済的価値が増したことで、高度成長時代、バブル時代と、いくつもの集団が暗躍していた。バブル崩壊から、30年が経ち収まりつつあったものが、ここにきて出てきている。それを有名にしたのが、東京五反田の古い旅館の取引です。S社が被害を受けたのはあまりにも有名で、数年たってもこのエリアでは話題になっていました。そのエリアでアパートを受注したことがありますが、建物を引き渡し、保存登記と抵当権設定をする上で、司法書士や担当銀行員が慎重に対応していたことを記憶しています。移転登記でもないのに、本人確認を慎重に行っていたのは、あの事件がいかに司法書士の業務の信頼性を損ないかねないものだったかということを示していたと思います。

一般的に、世の中は肩書を信用してしまいますが、一部の人が信頼を落とすことをするのですね、残念で仕方ないのです。私も一級建築士という資格を持っていますが、十数年前の「A葉建築士事務所」の構造計算偽造にはまいりました。勉強して取得した資格の信頼は地に落ちてしまいました。更新のための研修制度、倫理観を養う制度などが必要です。

 五反田事件を題材にした小説「地面師たち」と、それを映像化した作品は、一度観てほしい、読んでほしい。本当に勉強になります。現実はもっと厳しい環境の中で行われていると思うのですが、時代とともに緻密になってきている。もちろん、二度と起きてほしくはないのですが、不動産の価格が上がれば上がるほど、詐欺事件は起きてしまうのが人間社会なのです。その内容の詳細は小説を読んでいただきたい。

 私がもっとリアルで怖いのは、会社という組織の在り方です。最近でも、「忖度」や「内部競争」、「コンプラグレー」、「これは戦争だ」といったキーワードが蔓延っています。まだまだ、人間として未熟な部分が表れているような気がします。この作品が、モデルとなったS社の経営陣の在り方をどこまで描いているのかはかわかりませんが、作品内では事件が「起こるべくして、起きている」と感じるのです。いわゆる組織の内部崩壊です。経営陣はもちろんのこと、社員間も信頼関係を失い、誰が味方か、どこに敵がいるのか、そんな中でビジネスを行っています。社内での派閥競争に居場所を見つけ、○○派、△△派など、消費者にとってはどうでもいいことが行われている。若い時から、出世街道を走って、取締役、社長、会長になるのが人生の勝者と思う人が多い。なぜか出世するごとに段々と常識を失い、それが正しい道だと思いはじめてしまう。人生の目的だったはずの「世のため、人のため」といった社会貢献は、言葉だけになる。そのような会社や組織が、残念ながら被害に逢うのです。

 不動産詐欺事件だけではありません。安全試験の捏造・改ざんを繰り返す自動車や、浸水した事実を隠して運航続ける船など、不正が後を絶たない。日本企業だけではなく世界中で起こっている。中央政府の中で不正が蔓延している国もあり、他国から信用されていないとわかっていながら、なかなか治せない。それらは、忖度、内部競争といった人間関係が大きく影響しているのは言うまでもありません。

 このような事件が起こるたびに感じるのは、「持っている知識、持っている能力」を世のため、人のために活かせたら歴史に残るような偉業をできるのではないかということです。少し踏み外していることを理解できないのは、人間形成がなっていないのです。稲森和夫さんは、人生・仕事の結果は、「能力×熱意×考え方」と言っており、考え方はプラスもあればマイナスもあるといっています。「世のため、人のため」といったシンプルな基本原則を実践する前に、「自分は運がない、応援してくれる人がいない」など言い訳をするようならば、結果は見えています。組織を持っている、人を育てている人ほど、「考え方」を学ぶべきだと考えています。


 

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